【オリンピック】「経済効果」ではなく「経済降下」?

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オリンピック「経済効果」ではなく「経済降下」?
オックスフォード大学のフライバーグ氏らの論文によると、オリンピック開催都市の平均スポーツ関連費用は120億ドル。スポーツに関係のない費用は、通常、その数倍あった。 1960年以降のすべてのオリンピックは、予算を平均で172%超過しており、少なくとも過去10年間にはこれほど予算を超過したスポーツイベントは存在しない。またオリンピック開催後に、経済成長が前年比プラスになった事実は存在しない。

予算の超過は開催都市が全額負担する契約となっており、IOCは財政的な負担をしない。毎回172%も予算を超過していれば、次回開催の際になんらかの対策を実施し、予算超過を回避するものだが、オリンピックにおいてはそれすら行われていない。
オリンピックに於いて予算を超過しても、開催が継続され、全体予算が肥大化し続けている理由は6つ挙げられている。
①不可逆性
招致申請時に出した計画書を、大幅に変更することは許されないこと。もし招致決定後に大幅な規模の縮小が行われたら、招致レースそのものの合理性が無くなるからだ。

②期限が固定されていること
開催日程はIOCが決め、その日程を変更することは、開催都市には出来ない。2020年東京大会の延期もIOCに決定権があり、東京都はそれに従うしか無かった。
コロナ前の事例を確認すると、オリンピック開催都市に立候補した2006年当時ブラジル・リオデジャネイロは好景気だったが、10年後の大会開催時には、ブラジルの景気の落ち込みが激しく、オリンピックがブラジル経済にマイナスに作用している。招致決定から開催までの10年近い期間に世界情勢や経済の変化を正確に予測することは難しいからだ。

③金額未記入小切手症候群(Blank Check Syndrome)
オリンピックの開催予算は、本当のところ全く予測不可能で、終わってみるまで分からない。公式には2007年から2016年の10年間に開催された、データが利用可能な最新の5つのゲームの費用は、平均で120億ドルだった。
しかしこれには、道路、鉄道、空港、ホテル、その他のインフラストラクチャが含まれていまない。これらインフラ整備は、民間主導で行われる事も多い。しかも大規模競技場や、大型ホテルなどは、オリンピック終了後に負の遺産となる事例も多い。
開催地決定後に交わされたIOCとの契約以上の費用は、IOCは今まで負担したことが無い。つまり開催地は、どんな金額が書き込まれるか見当もつかない、小切手をIOCに渡していることになる。

④IOCと開催都市の癒着(tight coupling)
開催都市に決定すると、IOCと詳細な契約書を交わすが、その内容に関しては一部しか公開されず、多くの部分は秘匿されたままだ。この契約書はIOCに対して開催都市は従順かつ、尊重しなくてはならない内容になっていると考えられ、開催都市の意向を示すことすら難しい様だ。
またIOCと開催都市は協力して、オリンピックの費用や予算超過について誤った情報を提供することがよくある。2005年にロンドン大会では、国民に開示されてた予算の、約2倍に上方修正された予算で、2012年夏季オリンピックの入札を獲得している。その後、最終的な費用が2倍に修正された予算をわずかに下回ったことを、予算から下回ったと主張し、メディアBBCも予算が2倍に修正されていたことに触れずに、予算を下回り成功裏に終わった大会だと報じている。

⑤ 長い計画期間
2016年のリオデジャネイロ大会の開催時には、ブラジルの経済はマイナス成長に転じていた。2020年東京大会の開催予定時には、新型コロナウイルスが拡大し大会を延期するなど、招致決定から開催までの10年近い期間に、世界情勢や経済の変化を正確に予測することは難しい。

⑥初心者症候群
開催都市にとって、オリンピックという世界的なイベントは、初開催もしくは20年以上過去の出来事であり、前回開催時と社会情勢も経済も大会規模も異なり、参考になる事が極めて少ない。つまり初心者であるということだ。IOCとの不平等な契約書を前にしても、自分たちなら予算を172%も超過せずに実施出来る、と自身に満ちあふれている。しかし計画を実施してゆく段階で、想定外の事が起き、外的要因も内的要因も変化する。しかし開催都市には、延期や中止を決定する権利は無く、どんな犠牲を払ってでも実施しなくてはならない。

この論文では、2016年までのオリンピック開催国が、オリンピック後に経済的に成長した事例は、近年無いと断言している。最悪の事例はモントリオール大会だ。この大会では当初予算の720%の支出になり、債務を返済するのに30年掛かっている。2004年のアテネ大会後、ギリシャが財政破綻寸前まで悪化したこともある。2014年ソチ大会は219億ドルと過去最高の費用を掛けている。夏季オリンピックは平均で予算の213%掛かり、冬季で118%掛かっている。

2020年の東京オリンピックは、開催地立候補当時「復興五輪」だった。その後「経済効果」が開催目的かの様に言われてきたが、近年のオリンピックで開催都市の経済が上向いた事例は存在しない。
東京に緊急事態宣言が発出されている中、オリンピックを中止にしても、既にインフラ投資は終わり、準備費用の多くが支出済みだ。経済面だけに絞ると、どちらにしても8月以降日本の景気は、今まで以上に下降することになるだろう。

Flyvbjerg, Bent, Alexander Budzier, and Daniel Lunn. “Regression to the tail: Why the Olympics blow up.” Environment and Planning A: Economy and Space (2020): 0308518X20958724. (PDFファイル英文)

2021/5/25
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