日本各地の自治体が、映画やテレビのロケ地として経済効果を上げている。各自治体が「フィルムコミッション」(映画やテレビドラマ、CMなどのロケーションを誘致し、撮影がスムーズに進行するようサポートする非営利団体)などを置いている。
ロケによる経済効果には2面性がある。第一にロケ隊の滞在による経済効果だ。映画など大作の場合には100人近いスタッフと出演者が数週間滞在する。茨城県では2002年に「いばらきフィルムコミッション推進室」を創設以来17年間で7000作品を突破、経済効果は推計83億円にもなったという(フィルムコミッション推進室)。2019年にはロケ隊の宿泊費や弁当代、撮影機材のレンタル代を集計して試算した経済効果は約5億1千万円と試算している。
栃木県では、2019年度のフィルムコミッション事業の直接的経済効果は2億8000万円となり、過去最高を更新したと発表。NHKの大河ドラマ「麒麟がくる」の合戦シーンなどのロケ地に真岡市や塩谷町などが使われ、全体を押し上げた。直接的経済効果は2億8000万円は、宿泊代や弁当代など県内で消費された関連経費を足し上げて算出しており、これに波及効果を加えると5億円近くになると思われる。
第二に、ロケ誘致から地域振興までを考え、施策を打つ「ロケツーリズム」による経済効果だ。
第71回カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを獲得した是枝裕和監督、脚本作品「万引き家族」(2018年)のワンシーン、「家族」みんなで訪れる印象的な海水浴の場面は、千葉県大原海水浴場(いすみ市)で撮影された。映画がカンヌで受賞したこともあり、大原海水浴場で映画と同じポーズで写真を撮る光景が多く見られるようになった。
愛媛県松山市を舞台にしたドラマ「坂の上の雲」がNHKで放送さた2009年には、松山を訪れた観光客が前年より20万9000人増え、愛媛県内に約150億円の経済波及効果が見込まれると日本銀行松山支店が発表している。2009年には「坂の上の雲ミュージアム」がオープン。1年間で15万6000人を集めた。
いずれにしても、圏外から宿泊滞在者を呼び込むことで生じる観光関連となる。1案件でロケ隊と観光客の両方を呼び込む事が理想だが、栃木県足利市では渋谷スクランブル交差点をセットで再現し、ロケ地として映画作品などを観た観光客を呼び込む戦略を放棄した。
NHKの大河ドラマなどでは、舞台となった地域に放送期間中に観光客が増加するものの、放送終了後1年を経ずして観光客が減少。増加期間中に投資した観光施設が赤字に転落する事例がいくつもある。栃木県足利市の様な割り切った戦略も今後増えてくる可能性がある。
コロナ禍で観光産業は瀕死の状態だ。だが映画やテレビの制作は続けられ、海外でのロケが難しくなったため、国内でのロケ需要は増加している可能性もある。地方創生に取り組んで来たが、コロナで変更を余儀なくされた地域にとって、数少ない残された手段かもしれない。
2021/5/6